☆★☆★ <その1>始まる前からの試練 ★☆★☆


上野のはやぶさ

<↑写真1 上野の国立科学博物館のはやぶさ>


それはすでに出発の1週間以上前から始まっていました。

『天気が危ないらしい』

はやぶさ2のプラネタリウムで聞いた噂どおり、

週間天気予報でみた打ち上げ日(11月30日)は

あまり良くない天気。でもまだ時間はあるし、

天気予報が変わることもあるはず。

多少の雲なら打ち上げるだろうし、と

まだ楽観的に予想していました。

ところが、種子島に行く前日(11月28日)・・・。


打ち上げ延期!!!!


今回の旅は2人の同行者が来る予定でした。

一人は父。父は時間もありますし、今回の延期は問題なし。

問題あるのは・・・。


その日の夜、一緒に行く予定だったもう一人、

白さん(仮名)と話をしました。

白さんは打ち上げの次の日(12月1日)で帰らなくてはならないので

この延期で、ほぼ種子島で打ち上げが見れる可能性がなくなったのです。

種子島に行くのをやめることもできたはずですが・・・

「(それでは)すっきりしない自分がいる!」

こうして、3人の先の見えない旅が始まることになりました。





☆★☆★ <その2>種子島に渡る ★☆★☆


鹿児島港にて

<↑写真2 鹿児島港から見た桜島と船>


2014年11月29日のお昼

補助席まで満員になったバスに乗って

自分達は鹿児島県の南埠頭周辺につきました。

天気は良く南国らしい暖かな空気。

『今日が打ち上げ日だったらいいのに!』

どれだけそう思ったことか。

これなら明日の天気ももつんじゃないかー?


お昼のカレーを食べて港のあたりをのんびり歩き

15時には予定通り高速船ロケットに乗り込みます。

波も穏やかでほとんど揺れず快適な旅。

夕方には宿についてのんびりしていました。

宿のおばさんが風邪をひいていて

晩御飯がでないというトラブルはありましたけど。


夜には近くの公園で散歩しました。

星空が良く見えて、オリオン座もくっきり。

北斗七星はどこかな?


「北斗はどこだろ?」

「北斗の拳?」

「なんでアタタタタタがでるんだよ・・・」


今まで種子島には4回来ていますが、そのどれも

一人で来ていました。それが当たり前でした。

ロケットが趣味なんて、たいてい理解されませんから。

でもこうして、わざわざ遠方から一緒に

来てくれる人達ができたのは、なんだか

不思議というかありがたいというか、

未来ってわかんないもんだなあと思って・・。

ぱんぱん!と拍手を夜空に向かって打ちました。

なにかに感謝したい、祈りをささげたい。

そんな思いになったのかもしれません。





☆★☆★ <その3>種子島を一回り ★☆★☆


鹿児島港にて

<↑写真3 11月30日の宇宙科学技術館>


12月1日のお昼の予定となった打ち上げ時間から

1日滞在のばそうか、と考えだした白さん。

とりあえず、今日様子を見て決めることに。

島の南にある宇宙科学技術館に行き、

ロケットの丘展望所からはやぶさ2を搭載した

ロケットがはいっている建物VABを眺めます。

時折激しく雨が降り、雨具をもってこなかった

2人は苦労してました。

千座の岩屋で洞穴にひびく波の音を聞いたあと、

見学場の恵美の展望公園の前を車で通ります。

するとまだ予定時間まで1日あるのに

すでに中にはいる順番待ちの車列ができてました。

自分達よりはるかに気合はいっている人たちに

ちょっとあせりを感じます。

島の北の町の西之表市に戻り、鉄砲館を見学して

移動中に携帯電話で宇宙科学技術館に電話しました。

今日の夜おこなわれるであろう機体移動の時間を

念のため確認しときたかったのです。すると・・


『打ち上げ延期のため、機体移動は行われません。』


なんとふたたび打ち上げ日が変更されたのです。

父は「また延期?!」と、まいったまいった状態。

完全にロケットを見るチャンスを失った白さんは苦笑。

「ロケットのロの字も見れなかった・・・。」





☆★☆★ <その4>桜島観光と白さんとの別れ ★☆★☆


桜島の猫

<↑写真4 桜島の足湯の近くにいた猫(12月1日)>


次の打ち上げは12月3日のお昼。

2日間ひまになったので父は一人で屋久島に行ってしまいました。

自分は白さんと一緒に鹿児島まで渡ろうとしたのですが

海が荒れて荒れて・・・。船内がトランポリンのようにはずんで。

ちょっとしたアトラクションのようでした。


そのあとフェリーにのって桜島へ。

バスで桜島の名所をめぐったあと、マグマ温泉という公共の温泉に

入りました。なかなかでてこない白さんを待ちながら風呂あがりの

コーヒー牛乳を飲みます。(もちろん瓶!)

結局1時間20分もかかった白さんは満足そうな顔して出てきました。

でも鹿児島に戻り、空港に向かうバスの停留所に向かって歩いていくと

駄々をこねる子供のようになります。

「種子島にかえりたいよお〜〜〜〜」

だから、コートの裾をひっぱるなって。歩きにくい。

気持ちはわかるけど・・・。


バスに乗った白さんを見送った後、

自分も種子島に戻る高速船に乗りに港まで行きます。

ところが、欠航!してました。

朝の荒れ具合を考えれば予想もできたことなのですが・・。

しょうがなく、鹿児島で一泊。

明日には種子島に戻らなくてはロケット見学自体が

危ういです。自分も種子島にかえりたいよお〜!





☆★☆★ <その5>鹿児島の港を走る! ★☆★☆


プリンセスわかさ

<↑写真5 曇天と種子島に行くフェリー(12月2日)>


朝、心配してたとおり、高速船が欠航してました。

まだ自分の便まではまだ時間がありましたが、

種子島にもどれなくなるかも、という焦りでいっぱい。

そこで、はたと気がつきました。

高速船がだめならフェリー「プリンセスわかさ」がある!

ためしにフェリー乗り場に行くと

条件付運行(引き返す可能性があるということ)だけど

出発する予定だとのこと。


よっしゃ!もうこのフェリーに乗るしかない!!

大きいし、この船なら大丈夫だろう!


でも、ここでまたはたと思い出しました。

高速船のチケットをキャンセルしなきゃ・・・・!

あわてて高速船乗り場まで走り、高速船のチケットをキャンセル。

そしてフェリー乗り場までダッシュ!ダッシュ!ダーーーッシュ!


プリンセスわかさに飛び乗りましたが、まだ時間ありました。

こんなに急ぐ必要なかったなあ。

フェリーもそれなりに揺れましたが、昨日の朝の高速船に比べれば

かわいいもの。(それでも気分悪くなる人が続出してましたが。)

無事に種子島に戻ることができました。

その後、屋久島に行っていた父も種子島の宿にもどってきて一安心。

さあ、明日こそロケット打ち上げ!

体力を温存するために早めに就寝します。

疲れていたのでぐっすり寝てしまいました。





☆★☆★ <その6>打ち上げを見る!★☆★☆


見学場の前にならぶ車

<↑写真6 見学場の前にならぶ車(12月3日)>


朝4時に起床。ちょっと道に迷いましたが、午前5時30分には

見学場の恵美の展望公園前入り口の車列に並んでいました。

前に並んでいる車の数を数えてみるとだいたい60台ほど。

早めにでたので余裕があるくらいでした。

9時30分に公園内への誘導がはじまり(←徒歩なら先に中に

入ることができました)車を父に任せて、先に降りた自分は

急いで三脚をたてる場所を探します。ですがもう、けっこう

前のほうは場所とりでいっぱい。やむをえず、ちょっと土が

盛り上がって柵のぎりぎりのところに立つ所を選びました。

カメラを水平に調節するのに苦労しながら、隣の人とときおり

しゃべり時間がすぎるのを待ちます。ここでまた問題発生。

もってきたPCですが、画面に自分の顔が反射して何も

みえなーい。しょうがないので、カメラの画面を見ながら

マニュアルフォーカスでピントをあわせます。

(この方法、自信なかったんですけどね。)

はやぶさ2の缶バッジやらステッカーが配られて

みんなが列に並ぶのをちょっと眺めながら

自分はカメラの設定に集中してました。


あっというまに時間はすぎ、カウントダウンが

始まりました。「80、79、78・・・」

この緊張感も打ち上げの醍醐味の一つです。

狭い場所にずっとたってたせいなのか、

ひざがちょっと震えます。

カメラのシャッターを押すスイッチも

ちゃんと押せるかどうか自信がなくなる

くらいに、余裕がなくなっていきます。

「29、28、27・・・」

思えばここまで来るの、長かったです。

はやぶさ2のことを考えていた時間は

もっと長かったです。夢にまでみていた

そのはやぶさ2の打ち上げが

今、現実のものになろうとしている。


「10、9、8・・・」

もう言葉はいりません。

さあ飛んでけ、はやぶさ2!!



打ち上げ1



打ち上げ2



打ち上げ3







☆★☆★ <その7>後日談 ★☆★☆


はやぶさ2の打ち上げ成功を祝って

父と祝杯をあげた日の翌日。

帰りの船まで時間のあった自分は雨の中

一人で宇宙科学技術館に来ていました。

竹崎展望所のあたりから、はやぶさ2が

打ち上げられた場所を眺めていたんです。


思わず、うるっとなりました。

今まで姿を見ることができたはやぶさ2のロケット。

それがもういない。


雲をつきぬけ、隙間の青空にむかって飛んでいった

はやぶさ2。あの姿を忘れない。

きっと帰ってきたときに「おかえり!」って言います。

6年後まで、お互い元気に。See you!



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